ここには小説を載せとんじゃげや。

アフリカ

駅ビル構内の人工的な光が、チェーンのカフェのカウンター席にまばらに座る人影を明るく照らした。

フィルムの下の世界

「すみません。今日は傘を差したままでの勤務をお願いします」 「何かありましたか」 僕はビルを見上げたくなる気持ちを抑えて警備員に尋ねる。 「フィルムの出荷が間に合わなかったようで張替が終わってないので

シンガー・ソングライター

小さな軽自動車が唸りながら加速していく。正面にはどこまでも続いてる真っ直ぐな道路が、左右には田んぼと一定の感覚で配置された街灯がある。4車線ある大きな道路で昼間ならもっと交通量があるのだろうが今は僕た

ハネムーン

その人は本当に元気な人だった。夏になるとよく原色のTシャツを着た。黄色や水色の布地が真っ白な肌によく映えた。僕の知らないバンドのTシャツを夏になるたびにたくさん買うのだ。

普通の恋愛

32度。まだ6月だというのに馬鹿みたいな暑さで支配された街の、あんまりエアコンが効いていない喫茶店のせいで、960円も出して注文したアイスカフェラテの氷は跡形もなく液体に溶けている。

ヤー!

夏の夕焼けに、染まった雲がV字にかかっている。それはギブソン・フライングV。オレンジ色の変形ギター。

The Upside Down

東の空がサクレのレモンアイス色になっている。僕以外は特に可笑しいとも思わないらしくそのまま歩き続けている。道端に落ちているゴミが僕の名前を呼ぶ。囲んでいるビルもリズミカルに体を揺らしながら名前を呼んで

天使の遊ぶところ

パチンコ屋の前に座り込んで1ミリの煙草を吸っていたアヤネの爪には彼氏の成人式のために大金を払って塗ったネイルが残ったままだった

ある芸術家の逆行

カフカはその遺志に逆らって作品をいくつも公開されたといいます。その時、作品は初めて作者の意思を離れて世に届き、初めて芸術となったのです。作者の自意識と切り離されない限り、芸術は芸術たり得ません。その意

18歳

18歳に戻ってから二週間が経とうとしていた。二度目ともなると、生活は比較的容易だった。

漣のリズム

「飯、連れてってもらえませんか」と声をかけられた。「はい?」「もしよかったら飯、連れてってください」青年はもう一度言った。

Tie a Yellow Ribbon Round

 俺の刑期は5000年だ。結局、宇宙の探索は満足にできなかった。何万光年と離れたところまでいかないと学術的に価値のある情報は得ることはできない。放出された方向もすでに念入りに探索が行われたところであっ